2020/10/19 10:00
食材をオーガニックで取り揃えるとなると、エンゲル係数がグンと跳ね上がって、ちょっと難しいと感じる人も多いのではないだろうか。そんな方にまず始めてほしいのが、調味料にこだわる、ということだ。
ミネラルバランスの良い、ちょっとお高めの天然の塩を使うとか。大豆、麹、塩の産地やつくり方にこだわった味噌や醤油を使うとか。それこそオーガニックで揃えるだけでも、まず味の変化に気が付くはずだ。他にも油やみりん、料理に使う酒、酢、鰹節、昆布、など、取り揃えておきたいものに、少しこだわる。食材は近所の店で買ってきても、ひと味違う料理に仕上がる。
中でも特に大事にしたいのが、塩だ。
塩は、どこの海の海水を使っているのかとか、どう塩にしているのかとか、いろいろとこだわるポイントがある。岩塩という選択肢もある。用途によって使い分ける人もいる。
塩は古来、珍重されてきたものだ。古代ローマで塩が給与の代わりだったこと、それを語源としてサラリーという言葉が生まれているということ、それらはただの通説で、本当ではなかったとする説もあるが、だとしても塩が重要な存在であることだけは、間違いがない。
昭和47年まで戦争が終わったことを知らず、グアムのジャングルの中に隠れて過ごしていたという横井庄一さんは、木の実や川のエビや魚、野生の豚などを捕まえて食べ、生きながらえてきたという「最後の日本兵」として知られているが、発見されたとき、殺されないとわかって安心した彼の口から出た言葉は、「塩がほしい」だったという。27年間、塩なしで生きてきた人間の、心からの声。
醤油や味噌にも使われている塩は、食品表示だけでは「食塩」「塩」としか記されない場合が多い。そもそも、天然塩であるかどうかを食品表示で表記してはならないということになっている。この塩にこだわってつくっている醤油や味噌を一度口にすれば、その差がわかるのだが、食品表示でそれを確認できないとなると、ホームページやパンフレットを読み込むしかない。ラベルに記載しているところもある。気にかければ、選ぶことはできる。気がつくこともできる。
食材までこのやり方を徹底しようとすると、かなりの労力を必要とする。経済力も重要になる。だからせめて、調味料にこだわってみようという試みは、いかがだろうか。それだけでも、それなりの労力は必要だろうが、生きるために口に運んでいるもの、楽しむために加える調味料、そのくらいは気にかけたい。
(文・灘尾 剛/シルバーブレットby Photo AC)